42.相続人間の公平を図る仕組み その1 寄与分について

Q.母が亡くなり、相続人は二男である私と、長男、長女の3人です。私たち夫婦だけが、母の介護を自宅でずっとしてきました。一方で兄や姉は、母の面倒を何一つ見てくれませんでした。それなのに、母が亡くなると、2人とも「遺産は3人で平等に分けろ」と要求しています。
母の面倒をまったく見なかった者と平等に遺産を分けることはできません。このような場合、どうすれば良いのでしょうか。

 

A.このような場合、寄与分といって、生前に被相続人に対して一定の貢献があった者に対して、法定相続分以上の相続をすることが認められています。
相続人全員での話し合い(遺産分割協議)がまとまらない場合には、遺産分割の調停の申立てとともに、または申立ての後でも、寄与分を定める調停の申立てをすることができます。

 

寄与分とは、相続人の中に、被相続人(亡くなられた方)の財産の増加や維持に特別の貢献をした者がいる場合に、相続財産からその寄与分を差し引いた額を相続財産とみなして各相続人の相続分を計算し、貢献した者(寄与者)には相続財産とその差し引いた額を併せて相続させることで、相続人の間の実質的な公平を図る制度です。

 

ご相談のケースでは、長男様、長女様、二男様の3人が単純に平等にお母様の遺産を分割したのでは、今まで一生懸命にお母様の面倒を見てこられた二男様にとっては腑に落ちないことと思います。

 

そこで、二男様の介護による貢献を金銭で評価し、その評価額分をお母様の遺産額から差し引いて遺産分割し、その差し引いた額を二男様の相続分に加算することとしたのです。
(具体的な計算例は下記をご参照ください。)

 

【寄与分を主張できる者】

 

相続人に限られます。従いまして、相続権のない方(内縁の妻、息子の妻など)は、残念ながら寄与分を主張することはできません。

 

※このようなケースでは、内縁の妻、息子の妻などの者に財産の一部を遺贈する、という内容の遺言をあらかじめ作成しておく方法が有効です。詳しくはご相談ください。

 

また、相続を放棄した者、相続欠格者、廃除された者も寄与分を主張することはできません。

 

【寄与分と認められる場合(具体例)】

 

1.被相続人の事業を手伝っており、事業に対する貢献度が高かった。
2.被相続人が介護施設に入る場合に費用を全額負担した。
3.被相続人の療養看護を長年にわたって続けた。
などが考えられます。

 

【寄与分の手続き】

 

寄与分は原則として、相続人全員の協議で決め、その結果を遺産分割協議書に記載します。

 

遺産分割協議書には、必ずしも特別に寄与分としていくら取得することになったかなどの経過を記載する必要はありません。

 

ただ、他の共同相続人からなぜ多くの相続分を取得することになったのか疑念を持たれたり、後から寄与分についての話を蒸し返されたりすることを防止するために、寄与分についての点も遺産分割協議書に盛り込んでおくと良いでしょう。

 

協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停の申立てをすることになります。具体的には、遺産分割の調停の申立てとともに、または申立ての後でも、寄与分を定める調停の申立てをします。

 

調停が成立しなかった場合には、更に審判に移行します。その場合、家庭裁判所では通常、寄与分を定める審判を先行させてから、遺産分割の審判を行うことになります。

 

【寄与分の計算例】

 

(事例)
・上記の相談者様の事例で、お母様が7,000万円の財産を残されて死亡。
・法定相続人は長男様、長女様、二男様の3名。
・二男様がお母様の看護を10年間行い、1,000万円の寄与分が認められると仮定。

 

1.相続財産から寄与分の相当額を差し引き、みなし相続財産額を算出します。
7,000万円-1,000万円=6,000万円

2.各相続人の一応の相続分を計算します。
本事例では長男様、長女様、二男様ともに、6,000万円×3分の1=2,000万円

3.寄与分のある相続人に先の差し引いた寄与分相当額を加算します。
二男様の具体的相続分=2,000万円+1,000万円=3,000万円

(長男様、長女様の具体的相続分は各2,000万円のまま)


次回も、相続人間の実質的な公平を図るもう一つの制度として、特別受益について取り上げたいと思います。今回の寄与分と比較しながらご覧ください。

(43.相続人間の公平を図る仕組み その2 特別受益について