17.遺産全部を相続させる旨の遺言と他の相続人との関係

Q.このたび、私の母が亡くなりました。相続人は長男である私と、二男である弟の2人です。

 

私が母の遺品を整理していると、母が書いた自筆の遺言書を見つけました。特に封はしていなかったので勝手ながら読ませてもらったところ、自分の所有する財産はすべて長男である私に相続させる、と書いてありました。

 

とりあえず、家庭裁判所へ遺言書の検認の申立てをしたいと思っています。また、母の所有していた財産はほとんどが不動産ですので、相続の登記を行いたいと思っています。

 

ところが、弟はこのことに同意せず、書類への署名や押印を拒否すると宣言しました。

不動産の相続登記の申請に、弟が署名や押印をした書類は必要になるのですか?

 

なお、弟が遺留分を主張してきた場合には、金銭を渡して解決するつもりですが、相続手続きを巡って弟を裁判で訴えることは、世間体もありますので避けたいところです。

 

A.1.ご相談者様のケースでは、お母様が所有しておられた財産は、相続の開始とともに既に所有権が長男であるご相談者様に移っています

 

2.不動産の相続登記の申請に際しましては、弟様のご署名・ご捺印を要する書類の添付は不要であり、ご相談者様が単独で手続きをすることが可能です。

 

3.仮に、弟様が遺留分減殺請求をされたとしても、お母様のなされた遺言の効力が無効となるわけではありませんので、上記2.の相続登記の効力が否定されることはありません。また、ご相談者様が積極的に弟様を裁判で訴える必要もありません。

 

今回は、ご相談の事例を頂戴いたしましたので、それについて考えてみたいと思います。少しQ&Aが長いですが、お付き合いください。
(守秘義務への配慮から多少再構成しておりますので、その点ご留意ください。)

 

今回はお母様が自筆証書遺言を残されていたということで、自筆証書遺言としての要件(全文を自書、日付記入、押印など)はすべて満たしていたものとします。

 

その場合、判例によりますと、「相続させる」と記載された遺言によって、お母様の財産は、相続発生時(つまり、お母様が亡くなられた時)に、所有権が長男であるご相談者様に移転します。

 

つまり、その財産に関しましては、お母様の遺言による相続分の指定により、他の法定相続人が関与する余地はないことになります。

 

自筆証書遺言につきましては家庭裁判所の検認の手続きを経ることが必要です。
弟様にも家庭裁判所から通知が行き、手続時に出頭するよう要請されますが、出頭するか否かは弟様の自由ですし、出頭されなくても検認手続きは実施されます。

 

※今回は遺言書に封がされていませんでしたが、検認手続きを省略することはできません。また、封をしている場合、勝手に開封しないようにご注意ください。

 

また、相続による所有権移転登記手続きにおきましても、当該遺言書、家庭裁判所の検認証明書の他、お母様の死亡記載のある除籍謄本、ご相談者様の戸籍謄本・住民票、委任状などがあれば良く、弟様のご署名・ご捺印のある書類の提出は一切必要ありません

 

つまり、弟様の関与なく、ご相談者様が単独で相続登記の手続きをすることができます。

 

【遺留分について】

 

弟様は、お母様の相続財産に関しまして、遺留分という権利を有しています。今回のケースでは、相続財産のうち4分の1について遺留分を有していることになります。
 ※遺留分につきましては、下記のページをご参照ください(クリックでリンクします)。

当法律相談室(相続・財産承継)17.遺留分とは

 

遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)を弟様がされるか否かは、専ら弟様のご意思次第であり、ご相談者様が積極的にアクションを起こす必要はありません。

 

また、仮に遺留分減殺請求がなされたとしても、お母様の遺言の効力は否定されるわけではなく、それに基づいてなされた相続登記の効力も否定されません

 

今回のケースでは金銭で解決させるご意向との事ですが、仮にこのような場合で不動産を用いて解決する場合には、先の相続登記で取得した所有権のうちの4分の1を弟様に移転することになります(遺留分減殺を原因とする所有権一部移転登記)。