8.相続人の中に認知症などの方がいる場合の手続き

相続が開始した場合、法定相続人(相続の権利を有する方)の中には、認知症や精神障害、知的障害などの症状をお持ちの方がおられる場合もあります。遺産分割協議は法定相続人全員が参加しなければならず、認知症などの症状があるからといってこれらの方を除外して行えば、その協議は無効となります。

 

相続人の中に認知症などが原因で判断能力が衰えた方がいらっしゃる場合には、その症状の程度、意思能力(自分の状況を理解して物事を判断する能力)の有無、その方の権利や利益の保護、などを考慮した上で、適切な措置をとる必要があります。

 

【意思能力がある場合】


認知症などがあってもその症状が軽いため、意思能力があるといえる状態であれば、ご本人様が遺産分割協議に参加することになります。

 

【意思能力を失っているとみられる場合】


そのままでは遺産分割協議を行うことはできません。意思能力(自分の状況を理解して物事を判断する能力)を持たない状態で遺産分割協議を行っても、正しい判断ができず、他の相続人の言いなりにされてしまうおそれがあり、ご本人様の利益を害するおそれがあるためです。


このような場合、家庭裁判所に成年後見人などの選任を申し立て、選任された成年後見人などが遺産分割協議に参加することになります。

 

【成年後見人選任の申立ての手続きについて】


申立て先は、ご本人様の住所地を管轄する家庭裁判所です。

 

必要書類は、申立書のほか、
◎申立人の戸籍謄本(ご本人様以外の方が申し立てる場合)
◎ご本人様の戸籍謄本、戸籍の付票、成年後見登記事項証明書(*1)、診断書
◎成年後見人の候補者の戸籍謄本、住民票、成年後見登記事項証明書(*1)、身分証明書(*2)
◎収入印紙800円分(申立用)+2,600円分(成年後見登記用)
◎郵送用の切手(額は家庭裁判所によりますが、3,000~5,000円程度です。)
◎場合により鑑定費用(5万~10万円程度ですが、鑑定が必要な事案は全体の1割程度です。)
※場合により他の書類の提出を要請される場合があります。

 

(*1)ここでの成年後見登記事項証明書とは、東京法務局または全国の(地方)法務局本局で発行される、後見開始の審判等を受けているか、受けていないかについての証明書のことです。
(*2)ここでの身分証明書とは、本籍地の市町村で発行される、破産手続開始決定を受けていないことの証明書のことです。

 

成年後見人の候補者には、親族の方がなられるケースが多いですが、親族内で紛争がある、協議内容が複雑である、管理すべき財産が多額にわたるなどの場合には、司法書士などの専門家が家庭裁判所から選任されることもあります。近年は専門家が選任されるケースが増えています。


※成年後見人の候補者として、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートという団体が、一定の研修を受けた司法書士である会員を、後見人候補者として家庭裁判所に推薦しています。

(はしもと司法書士事務所の代表者もこの公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートの会員です。)

 

成年後見人の選任の申立てから選任されるまで、一般的に約2~3ヶ月かかります。従いまして、遺産分割手続きをスムーズに進めるためには、お早めにご相談ください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。